事実をもって縄文人が東南アジアから北上してきたとは断言できず、単に起源が共通しているとしかいえないと慎重な姿勢をするという方法は、従来の学問や研究を補強したり確認したりする、まったく新しい観点を提供しているのである。
さすがに現代では、「日本人単一民族説」を頭から信じている人は少ないだろう。
実際に、現代科学は「いわゆる日本人」という種がいるわけではないことを確認した。
それどころか、「人種」という言葉も、生物分類学でいうところの「種」ではなく、便宜上の分類でしかないことまでも明らかにしているのである。
ヒトの全遺伝子を解析するヒトがもっているDNAの全配列を読み解いて、すべての遺伝子をリストアップしようという計画が、いま世界的なレベルで進行しているのをご存じだろうか。
その大がかりな計画を「ヒトゲノム・プロジェクト」という。
生物の遺伝情報は、細胞中にあるDNAの上に、塩基配列の形で記録されている。
いってみれば、ワープロやパソコン用のフロッピーにデジタル化した情報が詰まっているようなもので、A(アデニン)、G(グアニン)、C(シトシン)、T(チミン)という、4種類の塩基の記号だけで遺伝情報が収められている。
この配列をすべて読み出して分析することで、ヒト遺伝子の一覧表を作りあげようというのがヒトゲノム解析計画である。
よく「ヒトの遺伝子は、30億個の塩基が連なっているDNA文字によって表現されている。
その総数は10万種類」といった表現がなされるし、ここでもおおむねそのように書いている。
しかし、これまで塩基の数が正確にカウントされたり、遺伝子の全種類が具体的に調べられたわけではない。
それどころか、いままでに具体的な塩基配列までが明らかになった遺伝子は、病気の原因を探しているうちに見つかった遺伝子が中心で、その数も2千程度と、全体から見ればごく少数である。
それ以外の遺伝子の内容については、これまで具体的に調べられるチャンスも場所もなかった。
つまり、ヒトのDNAでは30億の塩基がどんな配列になっていて、どんな情報をもつ遺伝子があるのか、全体的な姿がわからないまま個々の遺伝子研究が行われていた。
それではあまりにもロスが多いので、すべての研究の基礎になるデータとしてDNAの並び具合を調べ上げてしまおうというのが、ヒトゲノム計画の主要な目的である。
いまからおよそ200年前の1799年、エジプトに遠征したナポレオンの軍隊が、ナイル河口の町ロゼッタで未知の象形文字が刻まれた石板を発見した。
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